「はじまり」

外食産業で働き16年目。娘が産まれ、気づいたことがある。

子育てで疲れているであろう妻へのプレゼントとして、美味しいものを食べに行きたいのだが。 小さな娘を連れていても、安心して食事ができるところがなかなかなかった。そもそもキッズルームがあったとしても、離れた場所に隔離されることが多く、妻は子供をあやしながらすでに冷め切ってしまったご飯を急いで胃に詰め込む。そんなシチュエーションを多く体験した。どこか良い店はないかと探していたのだが、これがなかなか、思うような店に出会えない。

「子連れでも、のんびりと美味しいものを食べる店がないのなら、作ってしまえ。」

今思うと、これがすべての始まりだったのかもしれない。 赤ちゃんや子供も、一緒になって食事を楽しめるような、そんな店舗デザイン。子供がすぐそばで遊びつつ、母親たちは子供に声をかけながらのんびり美味しいご飯を食べることができる喜び。かといって、子供子供しすぎない。外食をしているという、非日常的な空気も多く取り入れつつ。とはいえ、かしこまった雰囲気ではなく、店舗の敷居は低く。しかし、心地よく過ごせる空間、音楽、先進的ではなく懐かしさを。実際の主婦たちの意見を多く取り入れながらの、飲食店ブランディングに入った。

「食材探しの旅」

店舗ブランディングと同時に、安全な食材探しの旅に出た。 おりしも、外食産業が、偽装問題や外産の農薬問題等に揺れていた時期。自分の子供にすすんで食べさせたくなるような、安全なものを届けたい。
そういった意味でも、北海道は、安全で素晴らしい食材の宝庫だった。 「●●さんがあんなに創意工夫し愛情持って育てている●●が、おいしくないはずがない」。あとは我々が、素材の味を活かし、シンプルに調理するだけで美味しいものが出来上がる。農家を周り、生産者の声と人柄に触れ、我々スタッフも自信を持ってお届けできる食材たちが集まった。
特に、当別の野菜ソムリエ、中出さんとの出会いは大きかった。日々、当別や石狩の農家さんから、新鮮で美味しいお野菜たちを届けてくれる。美味しい調理法も教えてもらえる。 ハーブ類は株を分けてもらい、屋上で育てることにした。ハーブはやはり、摘みたてが一番香りが良い。すこしでも良い状態のものをお届けしたいのだ。

こうして自分の子供にも安心して食べさせることができる食材たちが集まったわけなのだが、その結果、大人たちには「健康的な」メニューが出来上がった。そう、子供が安心して食べれるということは、大人には健康的なメニューなのだ。 ディナーを楽しむ大人には、健康的でわかりやすい美食を。子どもたちには、大地の恵みと優しさを。

「何屋をひらくんだい?」

飲食店ジャンルを問うこの質問に、僕らは即答でこう答えた。「肉屋です。」
肉屋というのは、素材としての肉を扱うという意味合いではない。肉料理のお店だ。人は誰しも、「肉をたべたい、肉を貪り食べたい」という欲求にかられると思う。ステーキという食材をメインで選んだのには、訳がある。ステーキならば、「ビフテキ世代」を味わったおじいちゃんおばあちゃんも、家族や孫と楽しむことができる。美味しいステーキが嫌いな世代なんて、
「美味しい肉を食べたきゃ、あそこに行けば食べられるよ。」「肉を欲したらブロカント。」
そんなお店を、僕らは目指しているのだ。

「ブロカントという、店名の意味は?」

これもよく聞かれる質問だ。
BROCANTE(ブロカント)というのは、「美しいガラクタ」という意味を持つ。西洋では「物を愛し、長く大事に使用すること」が暮らしの中に根付いる。壊れたものは直し、大切に使い続ける。 ブロカントとは、その様な欧州文化の中、フランスで大切にされてきた美しい古道具のことを意味するのだ。
アンティークのように、敷居の高い、高級なものではない。われわれは、「ブロカント」。生活に根ざし、料理、店舗、人員、少しづつ成長しリペアを繰り返しつつ、長くお客様に愛される店でありたいのだ。

「接客スタイル」

ブロカントのOPENは、とてもではないが順調なものとは言えなかった。 OPEN日も決まり、準備も終盤。順調な駆け出しのはずが、まさかのどんでん返しを食らってしまったのだ。OPEN直前数日前に、「ビル(テナント)の用途が、飲食店登録ではなく倉庫登録だった」との連絡をうける。役所への物件用途変更の手続きも踏まえ、OPEN日が一ヶ月近くズレこむことになってしまった。ゴールデンウイークをはさみ、役所も稼働せず、OPEN日を決められない状況が続く。用意していたフライヤー、DMにはOPEN日が記載されており、すべてがロスとなってしまう。当然、日にちが決まらないと新しい広告発注もできない。

結局我々が取らざるを得なかった選択肢はただ一つ。無告知での最短OPENだった。 札幌駅周辺という立地であっても、当然ながら無告知での集客は期待できない。それでも、近隣で働く方々や住民の方々が、お試しで訪ねてきてくださった。我々は媒体集客を諦め、「今自分たちにできる、最大限のおもてなし」をし、少ない集客をリピーターにつなげていく「営業」と「接客」を行うことにした。

いま来店しているこのお客様には、二度とお会いできないかもしれない。それならば、今このチャンスを逃さず、良い食材なのだということを、きちんと伝えねばなるまい。安くて美味しいものが食べられるならば、そこがリピートのチャンスとなる。
美味しい野菜だって、どうして美味しいのかを伝えなければ、ただの野菜だ。中出さんが集めてくださる素晴らしいお野菜の価値を下げてしまう。どうして美味しいのか、その食材の価値をきちんと伝える。自慢気、得意気にしゃべるのではない。スタッフが偉いのではない。生産者が素晴らしいのだ。そんな素晴らしい食材たちを、生産者を自慢しよう。

礼儀正しさと距離感のなかにも、良い意味で「隙」のある親しみやすい接客スタイル。どこかにスキがあって親しみやすいからこそ、生産者自慢と食材への情熱が嫌味なく伝わるのだ。「礼儀」と「隙」のメリハリ。ブロカントが目指す接客スタイルは、「無告知でオープンしたという逆境」から、生まれたと言っても過言ではない。

「新たにうまれた夢」

ランチの時間を主軸とし、主婦、子どもたちが集まり始めた。女性の口コミ力はすごい。宣伝をしていないキッズルームに、子供たちが集まることが多くなった。
子どもたちにふれているうちに、一つの夢と目標が生まれた。

この子たちが大きくなり、何歳になっても、家族でブロカントに遊びに来てほしい。「あのオヤジたち、俺が小さい時からかわらず肉を焼いてるんだぜ」と言われたい。そのうち、子どもたちは、道外の大学へ旅立つのだ。たまに札幌に帰省したときに、「懐かしい家族で通ったあの場所、ブロカントで」、おいしいご飯を食べてほしい。

その時まで我々は、一本スジの通ったコンセプトをかえず、かつ、さらに進化したブロカントであり続けたいと思うのだ。

代表取締役 白石孝信